ESRI社のDirector & Chief Scientist であるDr. David J. Maguireによるセミナーが9月26日にハーバード大学にて開催された。
Maguireは、『GIS原典―地理情報システムの原理と応用』(古今書院、1998)から、↓に示した『Geographical Information Systems And Science 』(2005)など、世界中のGISのバイブル的な書籍を多数出版しており、近年のGISの発展に最も貢献した一人ともいえる。
まずはじめに、SEAS(工学・応用科学科)にて、"Current and Future Trends in Modeling Geographic Systems"と題したセミナーを、その後、CGA(地理情報解析センター)にて、"Current and Future Trends in GIS"と題したセミナーを行った(各90分、合計3時間)。両会場には、GISを専門に扱うスタッフやGISに関心のある研究者、学生などが大勢集まった。
2つのセミナーを通して、「GISは、科学研究(含む、自然科学、社会科学)を行うための重要なツールであり、今後の科学の発展のためにより欠かせない存在となっていくであろう」ということを再確認できた。
1960年代から開発が始まったGIS(GI systems)は、今の時代、DesktopGIS, WebGIS, Open source GIS, Spatial data infrastructures, location-based services, dynamic modeling, server GIS, handheld GISなど包含する世界は広大だ。Google MapやGoogle Earth, Microsoft Virtual EarthもGISといえば、GISだ。
それぞれの技術には開発のトレンドがあり、時代とともに移り変わる。各技術に関して、「開発・普及のピークへ向かって成長し、期待の頂点に達した後、期待感の失望とともに開発・普及のペースが下落する。その後、時間の経過とともに、再浮上して、安定的再生産期に入る」というサイクルを、Gartner Hype Cycleを使って説明していたのが、印象的であった。昨今のGIS関連技術のトレンドがよく分かった。
学部時代に生物学と地理学を専攻(ちなみにPh.D.は地理学)していた彼の興味対象は幅広く、Webから、ソフトウェア開発、GISに関するマーケット、Google earth /mapとでは使っているデータムが違う?といったプロジェクションについての技術的な詳細まで熟知している。
さすが、ESRIのDirector & Chief Scientist(かなり偉い!) として長年君臨(?)しているDavid Maguireだけあって、GISに関する最新の技術動向を短時間で包括的に説明してくれた。
今回は、大学でのセミナーということで、学生や研究者から「研究でGISがどう使えるのか?」という質問が多かった。その中で、「多くのサイエンスは、GISなしでもできるのではないか?」といった質問が出た。
それに対して、Maguireは、「多くの研究者がやっている様な、詳細なサイエンスの分析に対して、現時点のGISでできることは限定的である。しかし、(汎用の)ソフトウェアとして、どこまで、何が出来るのかを挑戦し続けている。その例として、Geostatistics AnalystやAgent Analystなどのエクステンションの開発が挙げられる。
また、巨大なデータベースを構築する際にGISは有用であるし、空間的関係を考慮した拡散モデルなどを構築することにGISは優れている。さらに、SQL Server, Postgres, Oracle, SAP, SPSS, Rなどアカデミックやビジネス分野で汎用的に使われている外部システム(ソフトウェア)をArcGIS環境に統合できるという点で、科学研究の推進に貢献している」と返答していた。
彼みたいに、GISの理論・技術の詳細に熟知しており、実務・研究の両方での経験も豊かで、かつGISを使った分野横断型の研究に強い関心のあるお方には、ハーバードCGAのようなGISによる学際研究の推進を目指しているアカデミックの場でも活躍して頂きたい。
↓ Maguireの書籍の一部。
特に、『Geographical Information Systems And Science 』は、最新の技術動向・分析手法を、沢山の写真と図で総合的かつ分かりやすく説明しており、ハーバードのGISの講義でも参考図書として使われています。