2008年9月23日火曜日

ポスドク支援

 前回、「手厚い大学院支援(理工系)」を長々と書いてしまったが、本来、自分が書きたかったのはこちらのトピックだ。新年度の始まりということでキャンパス内では、各種イベントが目白押しだが、その中で自分が注目したのは「ポスドク・オリエンテーション・ミーティング」だ。

 ポスドクとは、博士研究員のことで、研究に専念するためのポジションである。通常1年~数年の任期が付いており、立場としては大学院生と教員の中間に位置するようなものだ(Wikipediaハーバードのポスドクの定義)。
 
 自分は今、ポスドクではないが、横国大にて同様のポジションを経験したこともある。そこで、「このオリエンテーションでは、一体何をやるのだろう?」と興味津々で、参加してみた。

 はじめに、ハーバードには約2,000人のポスドクがいて、そのうち58%が外国籍であるという紹介があった(3,800人という数字もあるが、これは連携のHospital Postdocsを含んだ数値であるため、実質は2,000人とのこと)。これは全米の大学でも断トツの数であり、2位のスタンフォード大学を大きく引き離していた(正確な数値は忘れたが、1,000人ちょっと。5,6位のMITのポスドクは850人程度)。ちなみに、ハーバード・カレッジ(学部)の1学年は1,600人である。それ以上のポスドクを抱えるハーバードでは、Office for Postdoctoral Affairsというポスドク支援専門の事務局が存在する(Website)。

 このポスドク支援室(以下、OPA)は、ポスドク自身の研究活動から、一緒にボストンへやってきたパートナーや家族の生活までに渡って全般的に支援してくれる。このオリエンテーション(昼食付き)では、OPAおよび関連の事務局のスタッフが、以下の項目について懇切丁寧に説明していた。

・ 福利厚生・契約関係
 保険や税金繰延勘定(TDA)、チャイルド・ケア、その他ポスドクが受けられるベネフィットの紹介。公募による“チャイルド・ケア奨学金”という制度があったり、同性愛のパートナーを認めているところも米国らしい。ハーバードには3種類のポスドク雇用形態が存在し、それぞれ受けられるベネフィットは異なるが、一言でいうと「かなり手厚いサービスが受けられる!」といった印象だ。

・ 学内研究リソース
 複雑なハーバード学内組織や各種サービスなどの紹介
    
・ 研究費の申請などにおける学内手続き
 通常、研究費の申請手順は大学によって異なっており、外部からやってきた人間にとっては、その時にやってみないと良く分からないことが多い。このオリエンテーションでは、予算申請オフィスの担当者が、そのプロセスを資料付きで詳細に説明

・ 悩みや問題解決の手段
 ポスドクの肉体や精神的な悩みについて、無料・匿名で相談できるカウンセリング・オフィスや、雇用者(ボス)や同僚との関係の悪化や長時間残業、セクハラ、差別などの問題が発生した場合の調停や救済を支援する学内オンブズマン・オフィスの紹介があった。
 とかく微妙な立場のポスドクにとって、悩みや問題は尽きない。自分も、以前かなり苦しんだ時期もあった。(実際に使うか使わないかは別にしても)最初の段階で、このようなリソースや手段があることを周知してもらえることは、多くのポスドクにとって心強いはずだ。

 その他、「ポスドクのための税金勉強会」、「研究室運営ワークショップ」、その他の就職活動支援イベントを毎月予定している。10月にはオクトーバー・フェストにかけて、「Postdoctoberfest! Happy Hour」を、大学のパブで開催するというのはユーモアに溢れている。


 もちろん、(米国だし!?)実際どこまで支援してくれるのかは不明であるが、多くの不安を抱えてハーバードへやってきたポスドクに対して、「あなたとそのパートナー、家族全員を、広範に支援しますよ!」というメッセージをスタートの段階で示すことの意義はとても大きい。そして、専門の事務室が実在することは心強い。きっと、初めてのポスドクでハーバードへやってきた人たちはその有難みを感じないかもしれないが、日本のポスドク経験者の多くは、大学がこのような機会を用意してくれることに対して、涙を流して感動するだろう(笑)。少なくとも自分は、オリエンテーションに参加しながら、「ここなら骨を埋めても良い!」と深く感動した(まあ、ポスドクで骨を埋めることなんてあり得ないのだが(笑))


学生への手厚い支援に加えて、ポスドク支援も欠かさない。
世界中から優秀な学生・研究者が、この大学へ集まってくるものうなずける。


≪写真 学部生の寮。彼らはここで4年間を過ごす≫


↓ これからの大学の生き残り競争は熾烈だ!それ以前に、自分の生き残りの方が熾烈だけど(苦笑)