先日、突然Peterから、「俺の授業で、一回分の講義を担当しない?内容は、リモートセンシングで。」と言われた。
もちろん、一応、自分もリモセンの末端ユーザではあり、表面的なことは知っているが、人に教えるレベルではない。しかも、英語でなんて。。。
例えるなら、うどん職人が、突然イタリア料理の講習会を担当するようなもの(?)。空間情報科学というくくりでは、GISとリモセンは同じカテゴリーに入るが、やはり歴史も基礎理論も基盤技術も大きく違う。うどんもイタリア料理も“食”という意味では同じカテゴリーだが、食材も調理法も大きく異なる。
しかし、異文化の料理を勉強することは、料理人としての総合的な腕を上げる絶好の機会(のはず)。リモセンを基礎から勉強しなすことは、創作的GIS研究(?)を進める上で、プラスにならない訳はない。二つ返事で「はい、やります」と言えたらカッコ良かったが、「ちょっと考えさせて」と言って20分後位に、「や、やります!」とPeterに伝えた。
Peterは、『Environmental Science and Technology』という、教養学部(ハーバードには学部は一つ)の講義も担当している。主に理工系を専攻とする2・3年生が対象で、エネルギー・資源問題から、水や大気の環境汚染、気候変動・温暖化に至るまで、環境科学や環境技術の全般的な内容を網羅する。
その一つが、「衛星による地球環境の観測」(Tools for Monitoring the Environmental Processes of Earth: Satellites)であり、それを自分が担当することになった。
今回、授業の担当を躊躇した理由として、「内容が自分の専門とやや離れる」という点が大きいが、同時に、「授業のシステムが日本と異なる」ことも挙げられる。
はじめに、扱う内容は非常に広範であるが、一つ一つの講義の内容は深く、基礎理論から技術の発展、現在の最先端までを、その背景となった歴史的な流れも含めて、90分という枠を最大限に使って説明する必要がある。従って、表面的な〝リモセン技術とその応用の紹介”では許されない(当然か)。
そして、大きく異なるのは、教える側と学生との関係。
非常に荒く分類すると、日本の授業は「一方通行型」、こちらは「対話型」が主流であると思う。
日本だと、講義中に学生から質問を受けることはほとんどないと思う。基本的には、講義とは先生の話を聞くものであり、質問を受けるとしたら、「質問はありますか?」と問いかけた場合や、授業の後に個人的に質問を受ける場合がほとんどだろう。少なくとも自分の経験からはそう言える。
しかし、現在ハーバードで2つの講義を受講しているが、それを見る限り、こちらでは授業中の学生の質問がやたらと多い。鋭い質問が飛び出すことも多いが、中には本質的でない質問や個人的な質問をして授業の流れを中断する学生もいなくはない。
従って、どうしようもない質問から高度な質問まで、いつどんな質問が飛び出してくるのか全く予測不可能であるが、教える側には、授業内容は当然のこと、関連事項にはすべて回答できるよう、周到な準備と柔軟な対応が求められる。分野よる違いもあるだろうが、やはり日々状況が変わる環境問題を対象とした講義では、常に最新かつ正確な情報を仕入れていないと学生の質問には適切に対応できない。
やはり日本のように「授業中、学生からの質問を受けないことが前提の授業」と、こちらのような「授業中、学生からどんな質問が飛んでくるかが分からない授業」に臨むのでは、教える方の心構えは全く異なる。実際、〝学生が質問をしまくる”という環境が、教える側に緊張感を与えており、それがより質の高い授業へつながっている気がする。
しかし、その分、先生方は相当大変そうである。Peterはかなりのベテラン教授であり、同じ授業を長年こなしているはずだが、週末もオフィスへやってきて、常に授業内容を最新のものへ更新している。
それにしても、まだまだ英語が相当怪しいこの自分に、(たとえ一コマとは言え)講義を担当させるPeterは、かなりの大物である(きっと)。
≪写真・上≫ 川崎のオフィス。こんなところで研究してます。
≪写真・下≫ Pierce Hallの階段部分。手摺が低くて、ぼーっとしてると落ちそうで怖い。