2008年5月30日金曜日

KSGエグゼクティブ・セミナー

20~21日の2日間、行政大学院(KSG: John F Kennedy Schoo of Government)が開催するエグゼクティブ・セミナー、「正確かつ迅速な状況認識のための、複数組織間における地理空間情報の共有のあり方」に関する行政官向け特別プログラムに参加した(Executive Session on Situational Awareness: Assuring Cross-Boundary Information-Sharing in a Geospatial Environment)。

参加者は全部で50人程度。主催者であるKSGの教授陣をはじめとして、ハーバード地理解析センター(CGA)のセンター長、地理空間情報の共有に関わりの深い以下の組織の代表が集められた。
- 国防総省(DOD), 国土安全保障省(DHS), 環境保護庁(EPA), 陸軍(ARMY)
- 地質調査所(USGS), 海洋大気庁(NOAA), 国家地球空間情報局(NGA), 連邦航空局(FAA), 連邦食品医薬品局(FDA),職業安全健康研究所, 陸軍技術工兵隊
- カリフォルニア州環境保護局・公衆衛生局, アリゾナ州環境保護局, マサチューセッツ州公衆衛生局, ユタ州, ニュージャージー州警察,
- ニューヨーク市, フィラデルフィア市
- Google社、Microsoft高等技術研究所、インターグラフ社、Leica社、その他、ネットワーク・インターネット系企業
- Open Geospatial Consortium (OGC: 地理空間データの世界標準・相互運用を目指した非営利団体)

参加機関リストを見て分かるように、このセミナーは米国の中央省庁・州政府の高官を対象に開催しているものである。主催はKSG。CGAとOGCが共催。Microsoft, Google, ERDAS, Intergraphなどの空間情報技術関連企業がスポンサーという構成である。
大学が中心となって、企業を含めた、これだけの関連機関を一堂に会したワークショップを実現することによって、テーマとしては新しいものではないが、非常に複雑で難しい重要問題に対して、実践的に挑もうとするところが凄い。

かくいう自分も、博士論文では、「地理情報データベースによる都市防災情報システムの構築に関する研究」という、災害の事前対策や直後の緊急対応活動などの意思決定過程において、GISのデータをどう活用するのか?を研究していたので、今回のテーマは見逃せない。また、現在所属している目黒研究室でも、災害対応業務における情報処理フローの分析手法の研究などを行っているので、「これは出るしかない!」と考え、共催のCGAのメンバーとして、かなりの意気込みで(!?)参加させてもらった。

進め方としては、KSGの教授が主導のもと、
・米国での、これまでの省庁や州政府間の枠を越えた、画期的な情報共有の事例(例えば、海軍と海兵隊、連邦運輸省(USDOT)による海事情報の共有)を取りあげ、その(招待された)関係者たちに、その時の状況を話してもらうことで、ケーススタディを掘り下げる。
・それにより、問題の所在を明確化するとともに、問題解決の教訓を共有する。また今後、他のケースに応用する場合は新たな問題が生じるのか、そして、その解決法は?さらに、それを実現した場合のメリットは何か?、といったことを(あらかじめ割り振られた)キー・メンバーを中心に議論を展開し、随時、他の参加者も意見を述べたり、解決策などを提案していくという、ひたすら議論中心の進め方であった(~という手法らしい)。

参加メンバーには、ケーススタディー資料が事前に配布されており、参加者はその内容を熟知していることを前提に、セミナーは進められていく。すなわち、セミナーの開始時に、ケーススタディーの概要紹介や補足説明、プレゼンテーションなどは全くなしに、いきなり、「あの時、△△を判断したのは、〇〇省■■局から、◇◇の申し出があって、、」とケーススタディーの核心部分の掘り下げが始まる。ドライな雰囲気の(?)この会合では、冒頭での参加メンバーの自己紹介といった儀式もなく、いきなりフルスピードで走り始めるといった感じで、開始直後すぐに深い議論に突入する。そしてそれが、丸一日半続く。

当初は、やる気満々で参加したものの、ほとんどの議論に着いて行けいないというのが現実であった。。。(泣)
やはり、その事例を理解していることが前提であるが、そのためには米国の中央省庁および州政府の仕組みを熟知していることが大前提である。省庁程度なら大体分かっていたが、その下の部局(?)やその役割は全くと言っていいほど分からない(例:DHSのU.S. Secret Serviceって何?)。特に今回は、軍や防衛機関という、自分(日本人!?)にはあまり馴染みがない組織のケーススタディが多くあったため、日本の状況に置き換えて考えることも難しく、その具体的なイメージを掴むことは難しかった。
それより何より、パワーポイントなどの視覚的資料なしに(ほんの一部だけあったけど)、英語での深い議論を理解することは困難極まりなかった。残念ながら今回は、議論の上澄み的な部分だけの理解にとどまり、議論の核心部分は察することすらできなかった。なので、今回のブログでも具体的なことは書けないし、目黒研にお土産を送ることもできなかった。。。残念!

ただ、言い訳(?)として、「地理空間情報の共有のあり方」とタイトルに銘打っていた割には、一般的な情報共有の在り方に関する議論に多くの時間が割かれていた(=自分のストライク・ゾーン外)。この点は主催者および参加者側も認識しており、「今回の議論の成果をもとに、次回は地理空間情報の共有についてもっと踏み込んだ議論をしよう」という約束をして、今回のセミナーを閉幕した。まあ、何事も一度目の会合から核心に踏み込んだ議論をすることは難しく、同じメンバーでの会合を数回重ねていくことになるのだろう。


その他、個人的な感想として、
・参加者は、いずれも中央省庁・州政府の高官であり、年齢層もかなり高く、50代、60代がほとんどであった。しかし多くの方は、ICT技術全般(特に、地理空間情報)に関する広範な知識を持っており、その具体的な技術および関連問題・動向の深いところまで熟知していることには驚いた(GXML,マッシュアップ, TCP/IP, Metadata, etc.)。このような高官の方々が、地理空間情報共有の重要性について熱く語っている姿を見て、改めてこの分野での米国の“層の厚さ”を思い知らされた。自分の経験として、日本の政府・自治体の50代、60代の方で、これら技術の詳細まで理解している(=ものすごい関心を持っている)方にお会いしたことはない(もちろん、若い方は別ですよ)。


以下、メモ的に議論の項目をリスト化。本当はもっと踏み込んだことを書きたかったが、自分の憶測がかなり含まれていそうなので、やめておきます。
・データ共有の真の価値は?
・その懸念は何か?やはり軍関係機関は、機密データがたくさん。。
・今後いっそう発展していくICT時代において、中央省庁・州政府はどう対応していくか?
そのためには、若者にどのような役割を期待し、どのような環境を用意するべきか?
・これまでの地理空間情報として、莫大なストック(財産)があるが、
それを実践的な問題解決に対して、どう役立てるのか。
・バーチャル上でネットワーク化された情報と、実際の組織の違い(活動範囲、権限の違い)をどう結び付けるか。


≪写真・上≫ John F Kennedy St. この道路の右手が行政大学院(KSG)。ちなみに、左手の建物は学部生の寮。一度中に入ってみたい。
≪写真・中≫ 会場となったKSG Taubman Center
≪写真・下≫ Taubman Centerのらせん階段