2008年5月5日月曜日

試練のAIT修論発表会

国連大学では毎年、アジア工科大学(AIT)・大学院土木工学科の水工学研究グループの学生3名に対して修士論文の研究支援をしている。そのうちの一人、ベトナム人学生ティーの副指導者(External expert)として、自分も一年間、修論指導に参加させてもらっており、その最終発表会に参加すべく、今回バンコクへやってきた。

副指導とはいっても、バンコクと東京・ボストン間のインターネットでのやり取りによる“遠距離”指導が中心である。AITでの年4回の中間発表の際に、本文と発表資料を送ってもらい、内容をチェックした上でコメントをメールで返信する。それ以外に、随時お互いにメールでやりとりしたり、自分が出張でバンコクに行く際に、AITへ立ち寄り打ち合わせを行う、といった感じである。
しかし昨年は、ホーチミンからベトナム中央高地にかけての水資源管理施設の分布について、ティーと合同で調査する機会があったので、彼とは丸々1週間、研究の進め方を議論することができた(実際はほとんど雑談!)。


さて、ちょうど一年前、初めて同グループの修士論文発表会に参加したのだが、その時は修論発表&質疑応答が一人3時間であった!
内訳は、プレゼン約30分+ディスカッション約2時間+審査10分程度(学生は外で待機)+(その後、学生は部屋へ戻り)手直しに関するサジェスチョンが約20分。3人の発表会を9:00-18:00まで丸一日かけて行っていた。

AITの中でも、研究グループによって修論発表の長さは異なり、短いところでも一人1時間程度は確保されるという。もちろん、時間をかければ良いというものではないが、一つの修士論文の重みが、日本よりもかなり重そうだ(ちなみに、横国大での自分の修士論文発表は20分)。


ティーの修論タイトルは、「GIS Application on Water Infrastructure Inventory and Accessibility of Water Resources in the Upper Srepok Basin, Central Highlands, Vietnam」。
研究の内容は、①現地の自治体や住民へのヒヤリング調査を通して、水資源管理インフラ(雨量・水量観測所、ダム、堰、貯水池、井戸)についての情報収集をして、GISデータベースを作成する。②これからの人口増加や開発計画を含んだ、このデータベースをもとに、現在、そして将来(2010, 2020)の水需要および水供給を地域単位(市レベル)で予測する。③同時に、現状の住民の水資源へのアクセス評価を行い、④それらの結果をもとに、将来の水資源管理インフラ(浄水場、配水システムなど)の配置のあり方をを検討する、という流れである。


今年は、”その後の予定”(博士課程学生の公聴会)が詰まっているということで、一人2時間半の発表にとどまった。ちなみに、このグループの修論発表は、一般に公開されておらず、比較的狭い部屋で学生+審査委員4名のみで行われ、終始緊張感が漂う。

学生は20分のプレゼンテーションの後、この4人の審査委員を相手に1時間半の質疑応答に答えなければならない。しかも、この発表は「最後の仕事」ではなく、この審査委員会で指摘された事項をすべて反映させた最終版の論文を1週間以内に作り直して、審査委員に再提出する、というオマケが付いている。

やはり1時間半も質疑応答を続けていると、「○○は、▽にした方がいいよ」「□□もできるだろう」、「◎◎の結果まで出さないと、論文としては不完全」など、次々と修正事項が審査委員から出てくる。基本的に、研究者はこういう話をすると止まらないので、続々と「あれもやろう」「これもできるだろう」と審査委員から要求が出るたびに学生の表情が曇っていくのが良く分かる。

さながら圧迫面接のような雰囲気もなくはないが、鍛え抜かれた(?)AITの学生は負けじと反論したり、直すべきところは「Yes, sir」と素直に受け入れる。実際、国連大のサポートを受けているような学生は優秀かつまじめであるため、毎年、最終審査会の指摘を反映させた論文をきちんと完成させてから卒業するという。先生方も、それを見越して最後の追い込みをかけているのだろう。


卒業後、ティーは日本の大学へ進学するが、このようなAITでの厳しい試練を経験しているので、きっと日本の博士課程でも上手くやっていけるであろう。


<写真上・下>AITのキャンパス。本当は、修論発表中の写真を撮りたかったが、写真を撮れる雰囲気ではなかった。。

↓ 自分もそろそろ読み返す必要あり。