2008年3月16日日曜日

GIS@GSD

GSDとは、Graduate School of Design(建築大学院)のことである。大学院なので、基本的に学部生はいない。

GSDでは、約600名の学生が、建築デザイン、ランドスケープデザイン、都市計画デザインの3コースに分かれて、1Fから5Fまで階段状に広がる巨大studioで設計活動に勤しむ(写真参照)。意匠設計やランドスケープ設計の学生と同じく、都市計画専攻の学生も、Studioでの設計活動をメインとすることがGSDの特徴の一つと言える。後述のPaul Cote氏によると「これは米国でも珍しい」とのこと。おそらく日本の建築学科でも、デザインをメインとした都市計画コースを用意しているところは少ないのではないか?

GIS業界では、GSDの名前を聞いたことがある人も多いと思う。
Carl Steinitz (景観プランニングGISの第一人者、立命館大GISワークショップ)
・Jack Dangermond(ESRI社長
・Mark Sorensen(GPC社代表
Ian McHarg (『Design with Nature』(1969))
Peter Rogers(Carlと『A Systems Analysis Model for Urbanization and Change: An Experiment in Interdisciplinary Education』(1970)を共著)
などGISやランドスケープ・デザインの発展に貢献した人材を多く輩出している。

最近では、GSD-GIS = Carl Steinitzのイメージだが、彼は昨年GSDをstep down(退職)して、今はロンドンで暮らしているとのこと。そこで、GSD-GISの新エース(!?)Paul Cote講師から、現在のGSDでのGISの活用に関する話を聞かせてもらった。Paulは、Carlとともに『地理情報システムによる生物多様性と景観プランニング』(1999)を執筆。CGAのTechnical Advisory Committeeも務める彼は、GSD-GISの“顔”といって過言ではない。


Paulは、ハーバードでGISの授業を2つ担当(⇒ハーバードGIS講義一覧)。
彼はGSDの設計活動におけるGIS利用の促進を目的に、以下のような活動を行っている。

■GISデータベースの作成と維持管理
 ・・・マサチューセッツ州のGISデータをSDEで管理、イントラネットで共有

■GIS利用マニュアルの作成
 ・・・ソフトウェアのインストールからデータ作成、解析、3次元モデリングまで、丁寧なWebマニュアルを用意

■GIS活用便利ツールの作成
 ・・・自分も横国大にいた時、建築の学生からたまに相談を受けたが、建築設計の学生は自分が対象とする敷地の地形や土地被覆、土地利用、建物に関する詳細な情報(データ)が欲しい。もちろん、GISを使えばそのようなデータの抽出は可能であるが、そのためにGISの操作方法を覚えるのは面倒であり、大体は断念してしまう。

そこで、PaulはGISをほとんど知らない学生でも、自分の対象敷地の建物、土地利用、地形(標高)、航空写真をボタン一つで簡単に抽出できるツールを作成し(ESRIモデルビルダーを使用)、学生に配布している。これによって学生は、SDEのデータベースに自動的に接続して、マサチューセッツ州の対象地域のGISデータを簡単な操作で入手できる。
Paul曰く、「この便利なツールを使うことによって、学生は裏で動いているGISの存在を認識し、そこから逆にGISに興味を持ち、GISの勉強を始めることもある」。最初からGISを押し付けず、学生は知らない間にGISの機能を使うことで、その便利さと活用可能性をふつふつと実感し始める。何て完璧なGIS誘導作戦!

また、Googleのスケッチアップ・ツールで作った3次元モデルを、Google Earthに張り付けたり、ジオデータベースとしてArcMap上に表示したり、その逆(GIS⇒Google Earth)をやったりと、建築学科の学生が喜びそうな3次元データモデルの構築とソフトウェア間連携、ビジュアル化も支援しているという。

Google 3Dギャラリーには、PaulやGSDの学生が作ったハーバード大キャンパス内の建物の3次元建物モデルが沢山掲載されている。
≪下の3つの画像は、3Dギャラリーに登録されているハーバード大の建物モデルをGoogle Earth上で表示したもの≫


自分も学部時代は建築学科だったが、大学院に行ってGISを知ってからは、「GISは都市計画やランドスケープ・デザインのみならず、意匠設計の分野でも大きな力を発揮する」と常日頃から思っていた。Paulは、既に何年もGSDでそれを実践している。
Google EarthやGoogle SketchUpの登場、GISデータのみならず、CADの方でも進んでいる情報の標準化、異なるソフトウェア間の連携の容易化などを鑑みると、建築分野でのGISの利用はこれから飛躍的に伸びるだろう。
Paulと話している中で、それを再認識することができた。