2008年3月21日金曜日

ジオリファレンス・ワークショップ

Center for Geographic Analysis (CGA; 地理解析センター)が開催する「ジオリファレンス・ワークショップ」に参加した。ESRIユーザである自分は、ジオレファレンスと言葉から、「ジオリファレンス ツールによりArcMap上でコントロールポイントを入力することで、ラスタファイルの幾何補正を行う」ことを連想した。また、「ジオコーディング」などの住所情報の位置参照を連想する。何れにせよ個人的に重要だとは認識しているが、それほど関心が強い話題ではなかったため、あまり期待をせずに参加した。

ところが、実際はとても興味深い内容の、熱い(!?)ワークショップだった(パンフレット)。
特に午前中のChallenges and Potentials of Georeferencingと題したセッションでは、主にハーバード大学の教養学部社会学系、公衆衛生大学院、医学部、建築大学院、ユダヤ博物館(Semitic museum)、中国歴史プロジェクト、生態系プロジェクト(カンザス大学)の研究者・教員が、それぞれの研究分野において、『GISのデータをどのように作成するか?』について発表した。自分が認識していた上述のような狭義の“ジオリファレンス”についてではなく、むしろ各分野における〝時空間データの作成“に関する包括的な内容であった。具体的には、データの作成(ここでいうGeoreferencing)は、どの分野でも最初に直面する大きな問題であるが、どのように位置を定義するか(位置精度の問題、分類の基準)、どのようにデータ間のリレーションを構築するか? 位置名称をどう扱うか?など、異なる分野の専門家が一堂に会して、「時空間」の捉え方について合同で話し合う場であったと言える。

今まで自分も沢山のGISデータを作成してきた経験があるが、研究の分野や目的によって、「時空間」の捉え方が大きく異なり、データ作成にあたっては非常に多様な視点があることを再認識した。

やはり分野によって、物理的・社会的なバウンダリー(境界線)の捉え方は大きく異なる。当然であるが、公衆衛生の立場では、詳細なコミュニティレベルでのデータが必要であり、米国で流通しているZipcode(郵便番号)ごとに集計された社会統計データはあまり意味を持たない。むしろこのようなデータを使って解析することは問題があるという(参考文献、後日確認の上、更新)。分野・目的による時空間の解像度レベル、位置の捉え方、バウンダリーの意味・捉え方は大きく異なり、それに従いデータベース・スキーマも変わる。

同じような現象を見ているのに、分野によって、時間と空間の捉え方が大きく異なるというのは興味深い。ハーバードでのGISを使った研究は、「世界全域」や「古代から現代まで」といった時間・空間的な幅が広いものが多い。そのため、世界中からデータを収集する際、複数の言語をどう対処するか?言語によって、対象の扱い方、分類の仕方、表現の仕方が変わるという問題にどう対処するのか?複数言語に対応するデータベースはどう設計されるべきか、などなど。
また、歴史をさかのぼると、同じ地名が、異なる時代に存在することがある(St. Petersburg, Russia 1703 - 1913, 1991- vs. St. Petersburg, Florida, USA 1892- )。また、同じ場所が、時代によって名称が異なることもある(日本の市町村合併など)。歴史データを扱う際、一般的な名称による記述が多い(江戸、日向)。これらのデータを扱う際、GISユーザはどのように対処すればよいのだろうか?


各分野の発表やその後のディスカッションを聞いていて感じたのは、『このワークショップで対象としている「ジオリファレンス」とは、空間情報を軸とした、知識の構造化への挑戦である』
ということ。分野ごとの時空間の認識に基づいて、それぞれの領域の大量のデータをどう整理するのか、そしてそのためのデータベース・スキーマはどうあるべきかを議論していた。

やはり人は、ある問題解決のためにデータを使用する。そして、それらほとんどのデータは、時間と空間の問題を含んでいるが、その整理や処理は容易ではない。やはりユーザは、自分の目的に応じて、断片的にデータおよび事象を捉えがちである。しかし、このようなワークショップへの参加によって、他分野で開発されたツールや手法を共有するだけではなく、ジオリファレンス[所謂、時空間データベースを作成すること]を、多面的に捉えて、総合的な視点から現象(データ)を認識することに寄与したのではないか、と考えられる。各発表者は、他の発表者の発表を聞いて、新しい視座や知見を持ち帰ることができたのではないか?少なくとも自分はそうであった。同様の問題意識を持つ多分野の専門家が、共通のテーマについて一堂に会してワークショップを開催することで、参加者は新しい視座や知見を持ち帰ることができるとともに、総合的な視点から現象を見ることを獲得する。

時空間情報を扱う上で誰もが直面する問題をもとに(=“ジオレファレンス”による串刺し)、学際的なディスカッションを行うのはとても良い。
もちろん、これはハーバード大学での各分野における空間情報の活用が成熟していることが前提だと思われる。また、空間情報の活用による大学内の学際的研究の推進を目指しているCenter for Geographic Analysis (CGA; 地理解析センター)が、大学内の状況を把握した上で、適切なテーマ設定のもとワークショップを企画・運営して、学内のキー・パーソンを集めてきたから実現できたのであろう。

また、ワークショップでは、空間情報に関する以下のような興味深い議論も展開された。
・多面的で複雑な「時空間」問題に対して、正しい認識・手法のもと、立ち向かっていける人材を教育する必要性(geospatial education、spatial thinking)。
・プライバシーや秘匿性の問題(public data vs. privacy data)
・データのaccuracy vs. completeness
 (データのProbability issue – probability field, uncertaintyの問題など)


参加者の研究分野は人文系、社会科学系から自然科学系まで多様であったが、やはり同じ問題意識を持っている人たちの集まりなので、とても盛り上がったし、一聴衆であった自分もとても勉強になったし、参加していて楽しかった。

今回、自分がきちんと理解できたのはきっと半分程度だろう(根拠なし)。
残り半分を聞き逃した(理解できなかった)のは悔しいが、「あせらず、無理せず、着実に」、これから頑張りましょう!