今週、日本からお客さんがいらっしゃった(最初で最後か!?)。
企業に勤めるOさんが、来週、サンディエゴで開催されるESRI国際ユーザー・カンファレンスに参加するついでに、わざわざ関西空港からサンフランシスコ経由で、ボストンまで足を運んでくださった。Oさんは、30年以上前からGISに携られている、日本におけるGISの第一人者の一人と言えるお方。やはりGIS教(狂)の信者(特にESRI派)にとって、ハーバード大は一度は訪れたい巡礼の地なのである(おそらく)。
現在のGISの原型となるような技術や概念の多くは、ハーバード大学・建築大学院(GSD)およびHarvard Laboratory for Computer Graphics and Spatial Analysis(1965-1991)で発展した、“コンピューター・マッピング”によるものが大きいという。実際、現在世界中で活躍する多くのGISレジェンドが、このハーバードGSDおよびラボから輩出されている。
(現ESRI社長のJack Dangermondとともに)当時のハーバードGISグループの中心メンバーであった、Carl Steinitz(立命館GISWSでおなじみ)とPeter Rogers(自分の現ボス)は、GISを使った環境プランニングの先駆けとなる本を1970年に出版した※1。そして、この本は日本語へも翻訳され、1973年に日本国内で出版された※2。
1973年、当時大学生であったOさんは3,500円でこの本を購入し、今でも大切に保管している。
そして、今から2~3年前、著者の一人であるCarl Steinitzが東京に来た際、35年前の本を持って行き、Carlから直筆のサインをもらったという(「あんな昔に、3,500円も出してよく買ってくれたね!」とCarlから言われたらしい)。
今年1月、自分の渡米前に、東京でOさんと話をしていたら、僕のこちらでの受入教授が、もう一方の筆者であるPeter Rogersだと知り、とても驚いていられた。そして、「Rogers教授に、サインをもらいにハーバードへ行きます」とOさん、ボストン行きを宣言(!?)。
そして、今から約1カ月ほど前に、念願のボストン行きが決定したということで、Oさんと日程調整を開始。しかし、どうしてもOさんとPeterの日程が合わないことが判明。Peterは、7月中旬からヨーロッパにおり、ボストンへ戻ってくるのは8/2の午後だという。一方のOさんは、7/30のボストン到着後、8/2の早朝にはサンディエゴへ向かわなければならない。なんという絶妙な入れ違い。。。。空港ですれ違うことすら不可能な状況。。。約2週間前、Oさんへそのことを伝えると、とても残念そうであった。
しかし、Oさんは直筆サインをもらうことを諦めず、例の本を持って、ボストンへやってきた。「後日、Rogers先生からサインをしてもらって、日本へ送ってもらえますか?」と。
そして今日(7/31)、Oさんをホテルへ迎えに行く前、大学オフィスで仕事をしていたら、ふらっとPeterが現れた。
「あれっ?何でここにいるのですか?8/2にお戻りの予定では、、、??」
「急遽、スペイン行きがキャンセルになって、昨日ボストンへ戻ってきたんだよ」と。
ひぃえ~!
早速、Oさんへそのことを伝えたところ大喜び!!
35年前に購入し、ずっと大切にしていた本の著者に、奇跡的に会えるようになんて!
なんてラッキーなOさん。そして、何よりも諦めずに本を持ってきたことが功を奏した。
Oさんの『Peter Rogersに会いたい!』という強い気持ちが、″何か″を動かしたのだろう。
※1 『A Systems Analysis Model for Urbanization and Change: An Experiment in Interdisciplinary Education』(MIT Press, 1970)
※2 『都市環境のシステム分析―アセスメント・モデルとメッシュ・アナリシス』(鹿島研究所出版会、1973)<写真・上>
<写真・下> 恐らく、世界でただ唯一のPeter RogersとCarl Stinitzのサインの入った貴重な日本語版書籍。
2008年7月31日木曜日
2008年7月25日金曜日
サマー・リサーチ・プロジェクト その2: リサーチ・アシスタント制度
これはとても興味深いハーバード大学の制度なので、後日、きちんと整理しようと思うが、要は“夏休み期間中、学部生が大学院の教員、研究者のアシスタントをしながら、各分野の基本項目や研究手法を習得することを目的とした大学内の有給インターンシップ制度”。
今夏、Peter Rogers研究室には2人の学部生がアシスタントを希望してきた。一人はPeterの研究プロジェクト(持続可能な都市の在り方)を希望する学部3年生のアントニオ。もう一人は自分の研究プロジェクト(気候変動と土地利用の変化がメコン川の水量に及ぼす影響分析)を希望してくれた学部2年生のジャネット。
自分のリサーチ・アシスタントを務めてくれるジャネットは“応用数学”が専攻ということで、自分のプロジェクトとは大幅にかけ離れているのだが、昨年、アフリカ・ザンビア共和国へボランティアに行った際、水資源問題に強い関心を持ったことが、このプロジェクトを選ぶ契機になったという。ちなみに、プロジェクト開始時の彼女の水とGISに関する知識・経験はほとんど0だった。
そんなジャネットと、10週間、プロジェクトを一緒に進めることになったのだが、さすがハーバードの学部生、仕事を進めるのが尋常じゃなく早い!
プロジェクト開始後の1週間は、いきなりArc HydroおよびHEC-GeoHMS、HEC-HMSの演習を独習してもらった※1。GISの入門をすっ飛ばして、いきなりArc HydroおよびHec-GeoHMSを習得させるのはかなりの荒修行である。例えるなら、スノーボードの未経験者を、「最初に滑り方のノウハウは教えるので、自分で独習して滑れるようになってくれ!」といきなりハーフパイプへ突き放すようなものである。
こう書くと自分は鬼軍曹みたいだが、全350時間というアシスタント期間の制約の中で、ただのお手伝いで終わらせるのではなく、彼女の成果にもなるような一仕事を経験させるためには、悠長に基礎から手取り足取り教える時間など無い。それ以上に、自分がこれまでに授業などで学生を見てきた経験から、「ハーバードの学部生は、(入学前は当然のことながら)入学後にかなり鍛えられているので、彼ら/彼女らの能力をフル回転させるのような難しい課題を与えないと、彼らにとってはただの退屈な業務になってしまう」という考えがあった。
また、それまでに全く面識のない学生と10週間を過ごして、一つの成果を出すためには、かなり初期の段階で本人の能力・趣向を見極めた上で、その後のスケジュールを調整したり、場合によっては研究の方向性を変更する必要がある。そのためにも、オーバーワーク気味の課題を敢えて与えることにした。
そして実際に、演習を開始した第1周目の進行は、自分が想定していたよりも遅かった。「まあ、ハーバード大生とは言っても、さすがにいきなりのArc Hydroは酷過ぎたなぁ」と思って、ちょっぴり反省&安心(!?)してみたりもしたが、一通り演習を終えた第3週目以降の彼女の業務処理の速さと精度、さらに応用力の高さには驚かざるを得なかった。例えるなら、スノーボードを始めてたった数週間なのに、ハーフパイプを自在に滑走し、さらにはバックサイド180などのワンメイクも決められるようになっていたのである(スノボ2級、取れます)。専攻が応用数学ということで、もともと高いコンピュータ・レテラシーを持っており、プログラミングや数値処理に慣れていたことが大きな要因だと考えられるが、まだ学部2年生である彼女の業務処理能力は、感覚的には修士2年もしくは博士課程の学生以上であると思われる。
プロジェクト開始時は、こちらが用意したプログラムや業務を彼女に指示しながら進めてもらうという関係(上下)であったが、プロジェクトが進むにつれて、彼女の進行速度がグイグイと上がっていくので、後半は後ろから猛スピードで迫ってくる彼女を適切にリードするために、自分も次の方向や手法を全速力で探り続けるという関係(ほぼ同等?)へ変わっていた。実際、彼女は2カ月弱でArc Hydro&HEC-HMSマスターへ変貌し、他の大学院生へ教えるレベルに至った。
こんな感じで、自分よりもはるかに優秀なアシスタントをリードすることの大変さとともに、このような熱心な学生たちと切磋琢磨し(張り合い?)ながら研究を進めることの楽しさを体感している。
自分が、夏休みにハードに研究に打ち込んでるのは、このサマー・リサーチ・アシスタント制度によって学生に尻を叩かれている(叩いてもらっている)ことも大きな一因である。この制度は、「学部生が、大学院での研究活動を経験することで、研究の基礎を習得することが目的」と謳っているが、もしからたら、熱心な学部生を大学院へ送り込むことで、教授・研究者に“夏休みでもハードに研究を進めろ!”ということを大学本部が暗に狙っているのかもしれない(!?)。
何れにせよ、Peter Rogers研では、2人の若い学部生が研究室で熱心に研究を進めている姿が、他の大学院生にも刺激を与え、研究室全体に活気を与えるという波及効果を生んでいる。
自分も、学部生と一緒に研究を進めることはとても良い機会なので、ハードだけど充実した夏休みを過ごすことが出来ている。このような機会を与えてくれたPeterには、つくづく感謝である。このサマー・リサーチ・プロジェクトを熱心に進めていることのもう一つの理由は、実はこの“Peter”にある。その3へ続く。
※1 手前味噌ですが、ご興味のある方はどうぞ。
「水資源GIS アプリケーションArc Hydro の概説と米国における事例紹介」(PDFファイル)
今夏、Peter Rogers研究室には2人の学部生がアシスタントを希望してきた。一人はPeterの研究プロジェクト(持続可能な都市の在り方)を希望する学部3年生のアントニオ。もう一人は自分の研究プロジェクト(気候変動と土地利用の変化がメコン川の水量に及ぼす影響分析)を希望してくれた学部2年生のジャネット。
自分のリサーチ・アシスタントを務めてくれるジャネットは“応用数学”が専攻ということで、自分のプロジェクトとは大幅にかけ離れているのだが、昨年、アフリカ・ザンビア共和国へボランティアに行った際、水資源問題に強い関心を持ったことが、このプロジェクトを選ぶ契機になったという。ちなみに、プロジェクト開始時の彼女の水とGISに関する知識・経験はほとんど0だった。
そんなジャネットと、10週間、プロジェクトを一緒に進めることになったのだが、さすがハーバードの学部生、仕事を進めるのが尋常じゃなく早い!
プロジェクト開始後の1週間は、いきなりArc HydroおよびHEC-GeoHMS、HEC-HMSの演習を独習してもらった※1。GISの入門をすっ飛ばして、いきなりArc HydroおよびHec-GeoHMSを習得させるのはかなりの荒修行である。例えるなら、スノーボードの未経験者を、「最初に滑り方のノウハウは教えるので、自分で独習して滑れるようになってくれ!」といきなりハーフパイプへ突き放すようなものである。
こう書くと自分は鬼軍曹みたいだが、全350時間というアシスタント期間の制約の中で、ただのお手伝いで終わらせるのではなく、彼女の成果にもなるような一仕事を経験させるためには、悠長に基礎から手取り足取り教える時間など無い。それ以上に、自分がこれまでに授業などで学生を見てきた経験から、「ハーバードの学部生は、(入学前は当然のことながら)入学後にかなり鍛えられているので、彼ら/彼女らの能力をフル回転させるのような難しい課題を与えないと、彼らにとってはただの退屈な業務になってしまう」という考えがあった。
また、それまでに全く面識のない学生と10週間を過ごして、一つの成果を出すためには、かなり初期の段階で本人の能力・趣向を見極めた上で、その後のスケジュールを調整したり、場合によっては研究の方向性を変更する必要がある。そのためにも、オーバーワーク気味の課題を敢えて与えることにした。
そして実際に、演習を開始した第1周目の進行は、自分が想定していたよりも遅かった。「まあ、ハーバード大生とは言っても、さすがにいきなりのArc Hydroは酷過ぎたなぁ」と思って、ちょっぴり反省&安心(!?)してみたりもしたが、一通り演習を終えた第3週目以降の彼女の業務処理の速さと精度、さらに応用力の高さには驚かざるを得なかった。例えるなら、スノーボードを始めてたった数週間なのに、ハーフパイプを自在に滑走し、さらにはバックサイド180などのワンメイクも決められるようになっていたのである(スノボ2級、取れます)。専攻が応用数学ということで、もともと高いコンピュータ・レテラシーを持っており、プログラミングや数値処理に慣れていたことが大きな要因だと考えられるが、まだ学部2年生である彼女の業務処理能力は、感覚的には修士2年もしくは博士課程の学生以上であると思われる。
プロジェクト開始時は、こちらが用意したプログラムや業務を彼女に指示しながら進めてもらうという関係(上下)であったが、プロジェクトが進むにつれて、彼女の進行速度がグイグイと上がっていくので、後半は後ろから猛スピードで迫ってくる彼女を適切にリードするために、自分も次の方向や手法を全速力で探り続けるという関係(ほぼ同等?)へ変わっていた。実際、彼女は2カ月弱でArc Hydro&HEC-HMSマスターへ変貌し、他の大学院生へ教えるレベルに至った。
こんな感じで、自分よりもはるかに優秀なアシスタントをリードすることの大変さとともに、このような熱心な学生たちと切磋琢磨し(張り合い?)ながら研究を進めることの楽しさを体感している。
自分が、夏休みにハードに研究に打ち込んでるのは、このサマー・リサーチ・アシスタント制度によって学生に尻を叩かれている(叩いてもらっている)ことも大きな一因である。この制度は、「学部生が、大学院での研究活動を経験することで、研究の基礎を習得することが目的」と謳っているが、もしからたら、熱心な学部生を大学院へ送り込むことで、教授・研究者に“夏休みでもハードに研究を進めろ!”ということを大学本部が暗に狙っているのかもしれない(!?)。
何れにせよ、Peter Rogers研では、2人の若い学部生が研究室で熱心に研究を進めている姿が、他の大学院生にも刺激を与え、研究室全体に活気を与えるという波及効果を生んでいる。
自分も、学部生と一緒に研究を進めることはとても良い機会なので、ハードだけど充実した夏休みを過ごすことが出来ている。このような機会を与えてくれたPeterには、つくづく感謝である。このサマー・リサーチ・プロジェクトを熱心に進めていることのもう一つの理由は、実はこの“Peter”にある。その3へ続く。
※1 手前味噌ですが、ご興味のある方はどうぞ。
「水資源GIS アプリケーションArc Hydro の概説と米国における事例紹介」(PDFファイル)
2008年7月23日水曜日
サマー・リサーチ・プロジェクト: その1 近況
前回の更新から、早1カ月以上が経ってしまった。。。
「週1回の更新」を掲げていながら、6月、7月はほとんどブログのことを考えることが出来なかった。
何をしていたかというと、(自分で主張するのもおかしいが)「研究に没頭していた!」のである。
5月下旬から今まで、朝から晩まで、ほとんどの時間を研究に注いできた。研究者なので、そんなの当たり前のように思われるが、日本で研究をしていた時はこのようなまとまった時間を作ることは難しかった。やはり大きな仕事をする上では、同じ12時間でも、2時間/日×6日と、6時間/日×2日では、その進行具合が著しく異なる。
もちろん、現在と日本で研究していた時は立場が違うので比較はできないが、基本的に日本で研究していた時(含む大学院)は、授業やイベントの開催、報告書の作成、事務処理、会議・打ち合わせ、セミナー、学生や訪問者の対応、その他多種多様な雑務(!?)などでひと塊の大きな時間を確保することは難しかった。土日や夏休みですら、研究関係の会議やセミナー、勉強会などのイベントが開催されることも多かったので尚更である。
ハーバードは、6月初旬の卒業式が終わってから9月中旬まで夏休みだ。
大学内は、長期・中期不在の教授や学生もいたり、通常学期よりはセミナーや勉強会などが大幅に減っているため(ほとんど無し)、全体的なアクティビティは低くなっているが、大学院の方はそれなりに動いている。
自分も5月中までは、授業を受講したり、セミナーや勉強会に参加したり、出張があったりしたので、まとまった研究の時間を確保できていた訳ではなかった(もちろん、日本にいた時以上の時間はあったけど)。
夏休みが始まり、自由な時間が大幅に増えたことが研究を没頭することになった大きな要因であるが、本来であればむしろのんびりしていい筈である。だって、夏休みなんだし!
しかし、何故自分はそれほど必死に研究を進めているのか?
その理由は、その2、その3へ続く。
「週1回の更新」を掲げていながら、6月、7月はほとんどブログのことを考えることが出来なかった。
何をしていたかというと、(自分で主張するのもおかしいが)「研究に没頭していた!」のである。
5月下旬から今まで、朝から晩まで、ほとんどの時間を研究に注いできた。研究者なので、そんなの当たり前のように思われるが、日本で研究をしていた時はこのようなまとまった時間を作ることは難しかった。やはり大きな仕事をする上では、同じ12時間でも、2時間/日×6日と、6時間/日×2日では、その進行具合が著しく異なる。
もちろん、現在と日本で研究していた時は立場が違うので比較はできないが、基本的に日本で研究していた時(含む大学院)は、授業やイベントの開催、報告書の作成、事務処理、会議・打ち合わせ、セミナー、学生や訪問者の対応、その他多種多様な雑務(!?)などでひと塊の大きな時間を確保することは難しかった。土日や夏休みですら、研究関係の会議やセミナー、勉強会などのイベントが開催されることも多かったので尚更である。
ハーバードは、6月初旬の卒業式が終わってから9月中旬まで夏休みだ。
大学内は、長期・中期不在の教授や学生もいたり、通常学期よりはセミナーや勉強会などが大幅に減っているため(ほとんど無し)、全体的なアクティビティは低くなっているが、大学院の方はそれなりに動いている。
自分も5月中までは、授業を受講したり、セミナーや勉強会に参加したり、出張があったりしたので、まとまった研究の時間を確保できていた訳ではなかった(もちろん、日本にいた時以上の時間はあったけど)。
夏休みが始まり、自由な時間が大幅に増えたことが研究を没頭することになった大きな要因であるが、本来であればむしろのんびりしていい筈である。だって、夏休みなんだし!
しかし、何故自分はそれほど必死に研究を進めているのか?
その理由は、その2、その3へ続く。
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